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現代アートの読み物

楓月まなみ「画仙紙、レジンを使ったオリジナルアートの世界」

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小島―
アールワイズカフェバーの小島です。
本日は、楓月まなみ(ふうげつ まなみ)さんに独占インタビューを行わせていただこうと思います。

楓月さんよろしくお願いします。

楓月―
よろしくお願いします。

専業主婦からアーティストへ

小島―
楓月さんは、もともとお仕事でグラフィックデザイナーをやられていたのですね。

楓月―
はい、20代の頃にグラフィックデザイナーの仕事を行っていました。

小島―
お仕事ではどんなものを制作されていたのですか?

楓月―
商業デザインで、いわゆる印刷物一般に関するデザインです。
例えば、パッケージデザインやページ物の冊子、パンフレットやDM、チラシなどです。
そういったものを一通りやってきました。

小島―
学生の頃は、デザイン系の学校に通われていたのですか?

楓月―
そうですね。
専門学校でグラフィックデザイン科を卒業して、そこから就職をしました。

小島―
それでは、そこから徐々にアーティストとして活動の幅を広げていったのですか?

楓月―
いえ、もともとグラフィックの仕事をしていて、その後、結婚をして専業主婦を行っていました。

墨の世界から色の世界へ

小島―
実際に作家活動を始められたのはいつ頃ですか?

楓月―
今の抽象系の絵を描き始めてからは7年前くらいになります。
その前に前衛書(ぜんえいしょ)という書道の世界で、文字性を持たない書という分野があり、「面白いから習いに行ってみない」と知人に誘われて習い始めたのがきっかけで前衛書を始めました。

前衛書作品「SENRITU」
2015年 第64回 奎星展 奎星賞
610×1820㎜ 墨・画仙紙

前衛書は文字性を持たない書道の分野で、アート感覚で3年くらいやっていましたが、もともとグラフィックデザインの仕事をやっていたので、今度は色を使いたいと思うようになりました。

そこで前衛書の技法と色を織り交ぜて、自分でアレンジしながら抽象系の絵を描き始めたのが、絵の世界に入り始めたきっかけです。

小島―
それでは、どこかで習って勉強をしていたわけではなく、自分で色々とやりながら今の作品が生まれていったという感じなのですね。

楓月―
はい、絵の方は誰か先生についてやり始めたというものではないので、全て独学になります。
もともとベースとなるものはあるかと思いますが、そこから自分でアレンジをしながら制作をしています。

小島―
独学で始めるとなると、まず何をどうして良いかわからない。というところから始まり、経験はもちろん技術や知識、そこからの発想力や応用力がないと、なかなか一人で出来るものではないと思うので、すごいですね。

新道展、華やかなデビューから会員へ

小島―
アーティストとしてのデビューとなったきっかけについて教えてください。

楓月―
最初に画仙紙を使った抽象系の絵を描き始めた当時、息子が中学校でお世話になっていた美術の先生が新道展の会員の方で、ずっと連絡を取り合っていました。

私が抽象系の絵を描き始めたとお話をすると「じゃあ、出品してみたら」と言われて、新道展に出品したところ「佳作賞」をいただいて、これがデビュー作品となります。

小島―
初出品で「佳作賞」とはすごいですね。

楓月―
そこから、個人的な趣味から世界が広がりました。

小島―
現在は、どこかに所属されているのですか?

楓月―
絵の会は「新道展」で、去年、会員推挙になって、現在会員になっています。
会員になるまでの期間は、ちょっと早かったみたいで、「佳作賞」「佳作賞」「協会賞」と連続でいただいて、そこから1年の間を空けて「会員推挙」となっています。

小島―
それはすごいですね。

楓月―
たまたま私の描き方が一般的ではなく珍しいので、そういった技法の珍しさというのも注目されたのかと思います。

前衛書から画仙紙を使った独創的アートへ

小島―
最初にお会いした時に見せていただいたポートフォリオですが、結構な作品数がありましたが、作品を作るのにどのくらいの期間がかかるのですか?

楓月―
画仙紙に描く時は、書道の書き方を思い出していただくとわかりやすいと思います。

筆で紙に書くのは早いじゃないですか。
そのイメージで画仙紙の作品は描き上げるまでが早く、大きな作品でも短期間で描いています。

小島―
この画仙紙の作品はどのように作られているのですか?

楓月―
画仙紙の描き方は、まず紙を折り込むところから始まります。
絞りの感覚というと分かりやすいかと思いますが、例えば色を見せたくないところを縛って残していきますよね。

それと同じで色を置きたくないところを寄せて後ろ側に持っていきます。
そこにスプレーで色を載せて乾いたらまた色を載せて、それを繰り返し行い色のグラデーションを作っていきます。
そして最後は色の入っていないところを残すように制作をしています。

小島―
これは制作前に完成図のようなものを作るのですか?

楓月―
おおまかなラフは描きますが、紙を寄せるというのは最初に自分が考えていた通りにならないことが多いので、計算と偶発性をとって使っています。

もちろん、自分で「こうしたい」、「こう色を見せたい」というのは持っていますが、その時々の紙の寄り方などによって偶発性も出てくるので、それも活かしながら制作しています。

小島―
なるほど、お話を伺っているだけで、とても面白そうですね。

楓月―
自分は何ができるのか、自分が持っているもの、知っているものを上手く組み合わせて自分なりの表現をしていこうと思い制作しています。

小島―
そう思っても、なかなか真似できることではないですよね。

楓月―
前衛書では部分だけ紙を寄せるというものがあったので、そこから自分なりの独自性で発展させていったという感じです。

書道では紙の白を活かすという考え方もあるので、白の絵具を使わないで白い部分を残して表現したらどうなるのだろうと思い始めたんですね。

小島―
作品の写真を見せていただいた時に、どうやって作っているのだろうとずっと気になっていました。
線を引いて部分的に塗っていく緻密な作業なのかなと(笑)

制作風景
画仙紙を寄せて色を乗せる作業

楓月―
そうだったのですね、種明かしをするとそういうことだったのです(笑)
まずは紙を寄せていく作業から、これが結構時間がかかるのですよ。

小島―
紙の寄せ方については、最初は手探りで始めたと思いますが、今はこうしたらこうなるなど予想がつくのでしょうか?

楓月―
ある程度の予想がつくところと、「こうなったのか」「こうなってしまったのか」と寄せ方にも色々なパターンがあって、実際にやりながら覚えていくという感じです。

小島―
なるほど。
作品はご自宅で作られているのですか?

楓月―
はい、大きな作品を作る時には、床置きなので、リビングのテーブルや椅子を全部どかして、床を使って制作しています。

制作風景
ロールキャンパス(3,840×1,440mm)にアクリル絵具

小島―
それは大がかりな作業ですね(笑)
レジンを使ったアクリル作品を作り始めたのはその後ですか?

楓月―
そうですね、2年くらい前からレジンを使った作品を作り始めています。

テーマは「生から死、循環」

小島―
続いて、作品のテーマについてお伺いさせてください。

楓月―
よくある言葉かもしれませんが「生から死、循環」という言葉で簡単にまとめています。
人や動物、植物でも生まれてから死ぬまで、また再生するなど、そういった流れを表現したいなと思って制作をしています。

自分が生きてきた中で、自分の考え方や体験してきた事をベースに表現をしています。
若い頃にグラフィックデザインをやってきたこともそうですし、子育てをしてきたことなど、そういった全部を含めて、今の自分の感覚や表現ができることと思っています。

レジンを使った奥と手間の時空間

小島―
こちらの「Nosutalgia2」の作品も素敵ですね

楓月―
これは制作がハードでした(笑)

レジンを使った作品はフルイドアートとして、よくYouTubeなどでもやっている技法で、欧米などでは流行している技法なんです。

「Nosutalgia2」600×1,000mm

アクリル絵具にポーリングメディウムとシリコンオイルを混ぜて作ります。
絵具は色同士をちょっと混ぜただけでは混ざらなく、それを分離するよう調整しながら描いていくのですが、初めて見た時に「面白そう」と思い、これも少しアレンジしながらやっています。

この作品はレジンとドライフラワーを絡めて、すこし遊びをいれた作品になります。

小島―
離れてみても素敵ですし、作品に近づいてよく見てみると様々な工夫がされていて、見ていてとても楽しい作品ですよね。

「Nosutalgia2」作品の拡大写真

小島―
この作品よりも大きな作品はあるのですか?

楓月―
これが最大だと思っています。
以前にこの倍の大きさの作品を作ろうと思い、アクリル板にアクリル絵具までは加工を行ったのですが、これにレンジをかけるのは無理だなと制作途中で断念しました。

小島―
無理というのは・・・?

楓月―
レジンの周りを木枠など頑丈なもので作ればできるかもしれませんが、この作品の枠はテープで抑えてレジンが外に流れないようにしています。
そうすることで、外側のラインはシャープではなく、少し歪んだ柔らかい形になるのですが、これ以上大きい作品だとテープが持たなく、レジンが流れ出ちゃうんですよ。

それに重さの問題もあります。
この作品で8kgくらいあって、この倍の大きさになると16kgにもなるので、そうなると自分で持ち上げられないですし、このサイズが限界かなと思っています。

小島―
そんなに重いのですね(驚)

楓月―
「Nosutalgia1」の作品はコラージュ展というグループ展に参加させていただいた時の作品です。

これは4枚あって、それを縦に重ねて展示しました。

小島―
背景に葉っぱの柄が入っていますよね。
これはどのように作られているのですか?

「Nosutalgia1」700×1,100mm

楓月―
コラージュなので切り紙しています。
雑誌などで貼り込むように、私の場合は雑誌ではなく、必要な写真データをプリンタでプリントアウトしてそれを切り貼りして、貼り込んでいます。

最初にアクリル板にアクリル絵具で描いて、コラージュでコピーを切り貼りした時には、はっきりと葉っぱが見えているのですが、その上からレジンをかけるとトーンが沈んだような自然にくすんだような感じになるのです。

「Nosutalgia1」作品の拡大写真

あと、モワモワとした白いのはホワイトパウダーをかけていて、レジンを入れた時にホワイトパウダーが一緒に流れていき自然な感じになります。

こうすることで、奥と手間の時空間ができるので、そういったことも狙って制作しています。

小島―
パッとみたところでは、3層くらいあるように見えますが、もっとあるのですか?

楓月―
これは、3層、4層くらいだったかと思います。
レジンをかければ、かけるほど、奥行き感は出てきますね。

円形の作品「Mellow」シリーズ

楓月―
「Mellow」の作品は丸い型のアクリル板の上にアクリル絵具で描いて、レジンをかけた後にホワイトパウダーなどをかけたりして二層、三層と重ねて奥行感を出して制作しています。

「Mellow2」直径45cm

その他にも絵具の流し方を変えてみたり、スティックを使ってアクリル絵具を乗せた後にひっかいて描いている作品や、半透明の絵具を使うことで、後ろから光を通すと色が変わってみえたり、そういったものも制作しています。

「Mellow4」直径25cm
「Mellow10」直径15cm

小島―
作品はもちろん、ひとつの技法に対して、やり方をちょっと変えるだけで様々な柄の素敵な作品が作れるというのは面白いですね。

また楓月さんのアレンジという、その発想力に驚きですね。

思い出の作品について

小島―
楓月さんの思い出の作品について教えてください。

楓月―
それは新道展で最初に「佳作賞」を取った作品になります。
それまでは描き始めてはいましたが、10号などの小さな作品しか作っていなかったので、大きな作品をどう描いてよいか悩みました。

2017年 第62回 新道展 佳作賞
「Les quatre Saigon’s レ・カトル・セゾン」
1,800×592㎜ × 4枚
アクリル・墨・画仙紙・木製パネル

それで、書道でいう180cm×60cm(2×6尺)という規定のサイズがあるのですが、それが私の描ける唯一の大きさだったので、そのサイズの紙を使って四季をテーマに4枚で一つの作品を描きました。

これが最初の大きな作品であり、その作品が認められたということでも思い出の作品となります。

小島―
色の鮮やかさやグラデーション、四季の表現など、とても素晴らしい作品ですね。
先ほども画仙紙での制作についてはお話を聞いていましたが、お話で聞いてイメージするのと実際に見るのでは全く違いますね。

ニューヨークでの親子コラボ展

小島―
少し余談にはなりますが、とても気になっていたお話がありまして、先日、ニューヨークで娘さんと一緒に展示会を行ったとお話を聞きましたが、娘さんもアート関係の活動をされていらっしゃるのですか?

ニューヨークでの親子展

楓月―
真ん中の娘になるのですが、早くから留学したいといって、高校の時に留学をしています。
大学はファッションに興味があるので、ファッションを学びたいということで、ファッションデザイン科のある大学に通い、先日卒業をいたしました。

卒業する1年前から親子コラボ展を冗談でできたら楽しいね!と話はしていたのですが、特に場所なども決めてはいなかったのでが、偶然にも娘の知り合いがニューヨークで「Hard to Explain」というカフェバーを経営していて、「展示していいよ」と言ってくださり、展示をさせていただきました。

ニューヨーク「Sip + Co」での展示
「Sip + Co」での展示風景

楓月―
そのカフェバーのオーナーの一人が、ニューヨークのマンハッタンで「Sip + Co」という別のカフェも経営されていて、そこに私の作品を展示してほしいというお話をいただき、今現在展示しています。

小島―
ニューヨークで親子展なんて、とても素敵なお話ですね。

作品にちなんだ素敵なグッズも多数

小島―
今回の展示では楓月さんの作品にちなんだブローチやヘアゴムなども一緒に販売を行わせていただいていますが、どれも素敵な作品ですね。

楓月―
グッズ関係は「作品がブローチになっていたらいいのに」など、知人などからリクエストをいただき、最初はキーホールダーやブローチなどを作り始めました。

新作はマカロンの作品で、現在、ニューヨークで展示させてもらっているカフェが、お店でマカロンを作っていて、それを見た時にすごく可愛くてマカロンも作りたいと思って制作した作品です。

今後の活動について

小島―
最後に今後の活動や作品制作についても目標など、ございましたらお伺いさせてください。

楓月―
現在、画仙紙を使った作品とレジンを使った作品の大きく2パターンの作品を制作しています。
この2つを平行して制作は続けて行こうと思っています。

今後それがどこかで交差する可能性もあるかもしれませんが、それはそれでまた色々な世界が出てくると思うので、とりあえず現状を継続して続けていきたいと思っています。

小島―
今後の作品も楽しみですね。
また新しい発見から楓月さんなら作品に取り込んで、みんなが驚くような作品を作ってくださると密かに期待しております。

それでは、これで楓月まなみさんのインタビューを終わらせていただきます。
楓月さん、本日はお忙しい中有難うございました。