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宇流奈未の現代アート「自由に見て自由に感じてほしい」

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小島―
アールワイズカフェバーの担当の小島です。

本日は現代アート、抽象画家の「宇流奈未(うりゅうなみ)」さんの独特な世界観と表現方法から生まれる作品について、ご本人にインタビューしていきたいと思います。

宇流さん、本日はよろしくお願いします。

宇流―
よろしくお願いします。

北海道の自然から生み出された世界観

小島―
宇流さんの作品のテーマについて、教えていただけますか

宇流―
テーマは一貫して、自然や宇宙、ミクロとマクロの生命、その中に人間も含まれます。
そういったものを、時には具体的に、時には抽象的に表現しています。

小島―
そこに感心を持つようになったきっかけは何だったのでしょうか?

宇流―
こどもの頃の親の影響が大きかったと思います。

親がとても自然が好きな方で、こどものころから自然と触れ合う機会が多い環境で育ってきました。
例えば、キャンプに行ったり、海に行ったり、登山では、北海道の山はいくつもこどもの頃に親に連れられて登っています。

そういった環境があったため、自然の美しさや生き物や動物、草花などとても好きで私の中でも大きな存在となって、私の作品の大きなテーマとなっています。

私は、自然を写生するというのではなく、私が見たものや感じたものを一度自分の中に落とし込んで自分なりの表現で抽象化させて描くのが好きで、実際の色や形を正確に表しているわけではないかもしれませんが、その時の自分の気持ちなども加わると形も変わってきて、そういったことが融合して表現された世界になっています。

なので、使う素材も、表現の仕方も色々になり、同じ作家さんが描いた作品に思えないね、とよく言われます。

宇流奈美の「黒と白の世界」「色の世界」

小島―
宇流さんは、「墨」を取り入れた作品も代表作となっていますが、そちらも自然などに関係があるんですか?

宇流―
「墨」を取り入れたというのは、私が白と黒の世界が好きというのがもともとあって、白と黒だけの表現をするのに、それじゃあ、その白と黒は絵具を使うのか?と言われた時に、「墨」の独特の黒の輝きだったり濃淡の具合、グラデーションなど墨でないとなかなか出せないものがあって、そこが好きなんです。

主に自然や生命を抽象化させて表現する時や、女性の具象画を描くときに好んで墨を使っています。

小島―
油絵はお描きにならないのですか?

宇流―
油絵は私がアレルギーがあって、やりたかったのですができなく、描いている間に具合が悪くなってしまったりとあったので、そういった化学薬品的な素材を使わない方法で描くしかなくて、そこで水彩をやったりパステルを使ったり、墨を使ったりしたわけなんです。

なので、墨単体で使う事もあれば、水彩にまぜて使う事もありますし、伝統的に墨を扱う方から見ると邪道だと叱られるかもしれません(笑)

水墨画がやりたかったわけではないので、あくまでも現代アートで墨を活用するという方向で実験を試みていたんです。

小島―
なるほど、確かに普通の絵具の黒とは違いますもんね。

宇流―
そうですね、黒に温かみがあって、ちょっと膠(にかわ)が入ってくると輝きがあったり含有率によってもまた違うんですが、日本人ならではの感じがして、すごくいいなと思って使っています。

一方で色のある世界も好きなんですよ。

「白と黒の世界」と「色のある世界」を私の中で分けているのですが、時々白黒の世界の中に少し色を入れてみたりもします。

私の「Infinite mind」という作品では白と黒の世界にグリーンを入れています。

この作品は、もともと北海道の冬の平野が雪で白く染まって、向こうには海と地平線があり、空が曇って銀色となる風景を白と黒の世界で表現しているのです。

ここにあえてブルー系をいれることで、雪原や冬の海を抽象的にイメージさせた作品になります。

小島―
なるほど、あそこにブルーが入っているのと入っていないのでは、イメージも変わりますね。
ちなみに最近の作品ではパステルやアクリルの作品が多いようですがパステルでどのような表現に取り組んでいるのでしょうか?

宇流―
私はパステルを一般的な使い方をしていないんですよ(笑)

パステルって粉を固めた四角い棒のような素材で画用紙は少しザラザラとした粗めのものに大胆に書いて手で少しこすってぼかしたりしながら描くのがスタンダードですよね。

私の場合、棒状のパステルをカッターで削って粉状にして、ふわっと飛び散ってなくなってしまうくらいまでにするんです。
そして、その粉を直接、指で何回も何回も画面にこすりつけて何重にも重ねる手法で作成しています。

また普通にこの方法だと画用紙に粘着しないので、特殊な細工をして定着させています。

とても不合理な方法ではあるんですが、自分で編み出した手法なので、こだわってやり続けています(笑)

そうすることで、独特の色の深さと透明感がでてきて、完成したのがこちらの作品です。

小島―
マル秘のこだわりがとても気になりますが(笑)
このサイズの絵を全部指で何度も重ねてかいたんですね(驚)

宇流―
そうですね、描いている間にやりすぎると指紋がだんだん無くなってきますし、手の皮がむけそうになってくるのであまり長時間できなくて、休み休み作成しています。
それでも、この特殊な技法を使わないとこのような不思議な雰囲気や色は出せないので、がんばってます(笑)

前例のない巨大アート

島―
そんな宇流さんのアーティストとしてのデビューがどのようなものだったのかすごく気になるのですが、どうでしょうか?

宇流―
そうですね、もともと学生時代に進学で美大を目指していたのですが、家庭の事情で地元を離れられなくなってしまい、進学を断念してしまったんです。

そこから仕事や結婚、子育てとあって、こどもが落ち着いて自分の時間が作れるようになったので、また絵をやってみたいと思うようになったのがはじまりです。

小島―
そうだったんですね、それではどこか画廊か何かに通いながら勉強していたんでしょうか。

宇流―
いえ、全部独学で勉強していました。
もともと進学のためにデッサンや色彩、平面構成など、基本的なことは学んでいたので、そのころの教科書などを引っ張り出してきて、一から勉強だなって一人ではじめました。

ギャラリーなども自分で時間をみては足を運ぶようになり、そこでギャラリーのオーナーや美術関係者と知り合うようになり、

「絵を描いているの?」や「発表はまだなんでしょ?」など声をかけてもらえるようになり、作品を見てもらったら「これはすぐに発表したほうがいいよ」と言ってもらえて、作品を評価していただき、認めていただけた瞬間でした。

小島―
では、後押ししてくださった方がいたのですね

宇流―
そうですね。
そこから徐々に墨で巨大作品をつくりたいと思うようになり、どうせなら展示発表もしたいと思うようになったんですね。

ただ、作品の大きさも制限があって、大きい作品を受け入れてくれる公募展が当時、北海道新美術協会といういわゆる「新道展」しかなかったんですよ。

それでもそこまで巨大な作品はイレギュラーで、いままで誰も出したことがないサイズの作品だったので、先生たちの間では前例がないからと、そこまで大きい作品を受け入れて、一人でスペースをとってしまうのはどうなのかなど異論もあったようなんですが、「新しいチャレンジは受け入れていきましょう」と許可してくださった先生方のおかげで、展示させていただくことができました。

大きい作品に一区切りついたので、現在は新道展を退会しましたが、今でも本当に感謝しています。。

なので、最初はすごくわがままなデビューだったんですよ(笑)

それでも周りの方々のおかけで達成できましたし、そこからは大きい作品で墨だし、珍しいということで注目していただけてたんですね。

小島―
そうだったんですね(笑)実際に大きな作品ってどのくらいのサイズだったんですか?

宇流―
1番大きかった作品では、縦2mの横7mの作品です。

小島―
横7mですか・・大きいというので100号くらいかなと思っていましたが、イメージしていたサイズよりも遥かに大きくてびっくりしました。
そんな大きな作品ってどこで制作するんですか?

宇流―
そうですね、制作は自宅でおこなっいて、畳1枚分くらいのサイズの絵を描いて、それを何枚も繋げて1枚の作品にしています。

小島―
それってすごく難しい作業ですよね

宇流―
そうなんですよね、一気に並べて描いたりができないので全体像がちゃんとイメージできていないと繋げて描いていけないのですごく苦労しました。

全部広げて描くほどの大きな会場を借りて描くのは、ちょっと難しいので…。

それでも比較的、空間把握ののみ込みが早いところもあったみたいで、大きい状態をイメージしたまま一枚一枚描いていくことができたんですね。
私は下書きをしないので、頭の中でイメージをつくってやっています。

それで大きい作品で、墨を使っていることもあって、そういう作品はあまり多くはないので、注目していただけたのかなと思います。

小島―
それはすごいですね。
ちなみになぜ、そんなに大きい作品を作りたいと思うようになったんですか?

宇流―
それは私が当時墨を使って描きたいイメージの世界がそれだけの空間を必要としたからです。

本当は壁全部など、もっと大きくしたかったのですが現実的に難しかったので(笑)

小島―
それでも7mですよね、それでも小さいんですね(汗)

宇流―
この作品はシリーズがあって、全部で25枚くらいあるんですが、本当はそれを全部繋げた展示とかやりたいなと思いながらまだ実現できてないんです。

小島―
さきほどから驚かされっぱなしなんですが(笑)それはぜひ見てみたいですね

進化し続ける世界と表現力

小島―
そんな宇流さんの作品ですが、どんな人にどのように見てもらいたいと思っていますか?

宇流―
基本的に自分が好きだからやっているので、見てもらう人にどう見てもらいたいとかは、あまりなくて(笑)

実際に作品ができてので見てもらおうかなといった感じで、あくまでも自分の世界観をどこまで表現できるかに注視しています。

それってものすごく難しくて、思っていてもいざ表現したら全然自分が思っているものと違ってしまうこともあって、自分でこんな表現がしたいとか、完成したらいいなというところまで、どこまで近づけて表現できるかが一番のテーマですね。

一方で、途中から思わぬひらめきがあって、全然違う方向へ行って、結果的にすごくよくなった。ということもあったりします(笑)
それがまた、やめられない楽しさですね。

自然の世界、宇宙、生命など、なんとか自分の感じるイメージを表現したい。
なので、終わりがないですし常に進化しますしね。

「感じたものを感じるままに見てほしい」

宇流―
伝えたいことは、こんな風に表現する人がいるよ。というのが伝わったらいいですね。

みんなそれぞれ違う世界観があって、宇流はこういう表現方法で自然界や宇宙を表現する人として、面白いなって思っていただけたらいいなと思っています。

小島―
観る人によって、作品の見え方や感じるものって違いますからね。

宇流―
そう、見る人のその日の気持ちだったり、その人の置かれている状況によって、作品って印象がかわるので、私はそれでいいと思っています。
好きになったり、嫌いになったり、あきたり、人間らしくてそれでいいのかなと(笑)

「自分の作品はこうだから、こう見ろ」といったようなことも一切ないんです。
驚きとか発見が大好きなので。人がどう感じるかは自由なので、逆にどんな風に感じたのかを聞くことはすごく好きで、ぜひ聞きたいですね。

宇流の作品を見て、どう感じたのか、何を思ったのか、感想を聞けたら私としてはそれが本当に楽しみです。

こういう見方をする人もいるのかとか、こう感じる人もいるのかなど、そういうやりとりができたら一番嬉しいです。

いつも、感想をくださる方々の中には、素敵な詩的な表現だったり、ものすごく感性豊かな感想をいただいたり、深い深い想像をめぐらせてくれる方もいたり、描く側より表現力が豊かで、すごく勉強させていただいています。

なので、自由に見てほしいし、自由に感じてほしい。

「これ、嫌いだ」っていうのもそれも一つですね(笑)

身近にアートを感じ癒される空間に

小島―
それでは、最後に今後の活動目標や挑戦していきたいことなどありましたら、お伺いしてよろしいでしょうか。

宇流―
いまはもう大きい作品を一通りやってきて、いったんは区切りの時で、今後は小作品を作って個展などをやるほうにシフトしていきたいと思っています。

大きい作品は5年くらいやったので、少し休みます(笑)

いまは一周してパステルで風景を描いていた頃の原点にもどってきています。

テクニカルなところよりも絵をはじめたころの原点回帰でカラフルなものや親しみやすいものなど、みなさんが見て、この絵が部屋にあったらいいな。なんだか安らぐな。といった作品を作っていきたいと思うようになっていて、たぶん角が丸くなったんでしょうね(笑)

そこからうまれたのが小さなキューブの作品です。
より人に楽しんでもらいたい方向性に立ち戻ってきている感じです。
ですがまた、今後どうなっていくか自分でもわかりません(笑)

小島―
素敵ですね。こちらの作品は単体で置いたり並べてみたり楽しみ方ができて、ちょっとした生活の中にアートを取り入れやすく、楽しめる作品だと思います。

それでは、本日の宇流奈美さんのインタビューをこれで終了したいと思います。
今後のご活躍や新たな挑戦、応援させていただきたいと思います。
本日はありがとうございました。

宇流―
こちらこそ、ありがとうございました。