ホーム コラム 現代アートの読み物 平井森人「芸術にそそぐ飽くなき探求心」

小島―
アールワイズカフェバーの担当の小島です。
今回は、武蔵野美術大学の「平井森人(ひらい もりと)」さんの独占インタビューを行わせていただきます。

平井さん、本日はよろしくお願いします。

平井―
よろしくお願いします。

小島―
平井さんは武蔵野美術大学に通われているとのことですが、どんなことを行っているのですか?

平井―
現在は武蔵野美術大学の油絵コースの修士課程1年で油絵を勉強させていただいています。
研究内容はこれといったテーマ性を作品には持ち込まないのですが、ただ大事にしていることは、主観的なことになってしまいますが、「自分の感情的な部分」を今は大事にしようと思っています。

小島―
それは、喜怒哀楽のような感情ですか?

平井―
自分の感情の揺れ動きや起伏だったり、食欲や睡眠欲、性欲などの強い感情。
それは人間の誰しもが持つであろうもので、人間の汚い部分も含めて絵画にするということに現在は取り組んでいます。

僕の中の人間は表面的な部分だけじゃなく、内部の汚い部分も含めて、人の美しいところだと思うんですよね。

なので、そういうところを絵画で表現できるようにというのが一つの目標です。

小島―
なるほど、奥深いテーマですね。
現在は東京に住まわれているのですか?

平井―
今年の3月末に東京に来ています。

小島―
東京または大学に入って作品や制作環境など、これまでと変化を感じることはありますか?

平井―
そうですね、いままで札幌の美術予備校で絵を描いていました。
そこでは大学生だけでなく、予備校なので高校生もいますし、社会人の方もいます。

みんなが同じ空間で制作を行っているわけなのですが、大学に入ってから自分一人のスペースがとても増えまして、作品を二つ、三つ同時に並べても制作ができたり、壁に資料をペタペタ貼り付けても問題なかったりと、そういうスペースがちゃんと確保されていて制作環境としてはより良くなったかと思います。

例えば、作品をもっと平行して描きたいなと思うこともできるようになりました。
ただ、また少し狭く感じてしまっている部分もあって、もう少し広かったらなと(笑)

小島―
それでは制作環境がより豊かなになったということですね。

共感する奈良美智さんとの出会い

小島―
平井さんは、影響を受けた作品や作家さんはいますか?

平井―
メンタル部分でいうと奈良美智(なら よしとも)さんという作家が僕は好きで、描いているタイプは僕とは全く違いますが、物作りに対する姿勢だったり、考え方、物作り以外の考え方も共感する部分があり、奈良さんの影響はすごく大きいです。

小島―
奈良さんに出会ったのはいつ頃ですか?

平井―
たぶん大学1年生のころで、何も知らない時ですね。

小島―
それは実際の奈良さんの作品を見てではなく、何かしらでそういう作家さんがいることを知ったのですか?

平井―
はい、僕の両親が中学校の美術教師なんです。
それで両親から「奈良美智って知ってる?」と言われて、こういう人もいるよと紹介されたのがきっかけです。

当時、見た時はよくは分からなかったのですが、すごく印象に残っていて、見ていくうちにすごい絵を描く人だなと思うようになりました。

小島―
ご両親が美術の先生ってことは芸術家庭なのですね(驚)
それでは、小さい頃からそういった芸術とかに関わりや関心も高かったのですね。

平井―
そういう事でもなかったんですよ(笑)
絵はそこそこやってはいましたが、僕のお父さんはバレー部の部活の顧問でもあったので、小中高とずっとバレーをやっていました。

なので美術漬けで小さい頃から専門的にやっていたかというと、そうではないんです。

小島―
それでは美術の道に進もうと思ったのはどういうきっかけだったのでしょうか?

平井―
高校2,3年生の時に大学を意識し始める時期があるかと思います。
その時に最初は美術の先生になろうと思っていたんです。

小島―
それは、ご両親の影響ですか?

平井―
自分的には違うと思っているのですが、たぶんそうなのでしょうね(笑)

それで教育大を受験したのですが、ダメだったんですね。
それで通信に行って、そこでやっていくうちに先生にはなりなくないと思うようになっていったんです。
美術はすごく好きで、ただ先生にはなりたくないかもって。

小島―
なるほど、それでは今後は作家として、どんどん売り込んで行くというのが目標でしょうか?

平井―
そうですね。

大人に対して唯一対抗できるのは子ども

小島―
続いて、平井さんの作品についてお話を聞かせていただこうと思います。

フォトフォリオで色々な作品を見せていただきましたが、色がすごく深く何かを訴えてくるような魅力的な作品が多いなと思います。

その中で、今回、当店で展示くださっているメインの「童/WARABE」。
こちらは、どんな意図で制作された作品になりますか?

平井―
大学2年生の頃の作品で、その当時はまだそこまで作品は描いていなかったので、「一枚大きい作品を描いてみないか」と予備校の先生に言われて描き始めた作品になります。

油彩画「童/WARABE」F50号

その時に描きたかったのが漫画の「AKIRA(アキラ)」や「鉄コン筋クリート」などの漫画の影響もあり、反骨精神のようなものをテーマとして、大人に対して唯一対抗できるのが子どもかなと思い、子どもをモチーフとして描いています。

小島―
なるほど。
これまでに色々な作品を描かれていると思いますが、その中で思い出の作品などはありますか?

平井―
いま、紹介しているこちらの「童/WARABE」になります。
この絵のテーマである反骨精神や子供心というのは僕のあまり変わらない、大切にしている精神性なので、今後こういったテイストの絵は描かないかもしれませんが、こちらの絵は今後も大事にしていきたいと思っています。

あと、大学1年のころにコピックという漫画などで使う画材で、ドローリングと言ってラクガキのような事を行っていたのですが、そういうのは今見ても面白いなと思いますね。

小島―
なるほど、今までずっと油絵をやられていると思いますが油絵を専攻した理由は何だったのでしょう?

平井―
すごく単純なのですが、絵を描くなら「油」だなと….
美術=絵画=油またはアクリル みたいな(笑)

小島―
なるほど、油絵以外の作品を作ったりはしますか?

平井―
いまは無いですが、興味があるものとして「彫刻作品」は今後やってみたいと思っています。

小島―
絵画と違い、立体的なものですよね。
彫刻作品はどんなところに興味を持たれたのですか?

平井―
中学生の頃に美術の授業で粘土を使って自分の手を作ろうというのがありました。
その時に美術の先生に「彫刻いいね」と言われたり、高校や大学生の時にデッサンを行っている時に「平井君は彫刻的なデッサンだね」と言われることが度々あり、そういったところで興味を持つようになりました。

あと、絵画だけでなく彫刻も作られているアーティストも大勢いらっしゃるので、そういった人たちの作品を見て、粘土や木って生の物質感があってカッコいいなと思う事があります。

小島―
油絵を専攻していても彫刻などもやらせてもらえるのでしょうか?

平井―
授業に参加するというのは、なかなかできないと思うので、まずは先生に相談してみてアドバイスを貰おうかと思います。
一人で始めるには何も全くわからない状態なので。

小島―
なるほど、彫刻作品も今後楽しみにしていますね。

小島―
話が少しもどりますが、「自分の思ったことや感じたものを作品に強く」とありましたが、日常生活の中での感情などを作品にしているイメージですか?

平井―
そうですね、そういうところですね。
ただ、すごく僕の中の曖昧な部分で、今日はこういう感情でこういう絵を描くというわけでもないんです。

人物画を描くときにモデルさんを見て、どういう印象を受けて、それを描くかということもあります。

小島―
なるほど、全体的に人物を描かれている作品が多いように感じますが、感情や欲というところでは、人物画になるのでしょうか。

平井―
そうですね。メインは人物かなと思っています。
ただ、心の中の動きなど全然人物じゃなくても描けるテーマだと思っています。

毎日新しい発見、気づきを増やしていく

小島―
作品を制作していく中で、いろいろな問題や悩みってあるかと思いますが、今までで、上手くいかず躓いてしまったことなどございますか?

平井―
去年から今現在が割とそうです。
作品のスタイル、作風を変える試みをしていて、去年1年はずっと模索の時期でギリギリにならないと卒業制作も手がつかない状態だったんですよ。

今ようやく、上手くできないかもしれないけれど、まずはやってみないと何もできないなと、下手でも作品を増やしていこうと取り組んでいます。

そのため、去年から今現在の時期にかけては、なかなか自分が納得のいく作品は作れていない状態ですが、それでも楽しいですね。

小島―
なるほど、大学へ行ってから新しい発見や周りからの影響はどうですか?

平井―
新しい発見は毎日ありますね。
最近では色の調和のようなところで、普段使わない色だったり、自分が好きな色を使ってやっています。
この色を使ったら作品の印象が良くなるな、悪くなるなというのを考えながらやっていますね。

その中で偶然できた効果のようなものも大切にしていき、作品が未完成でも次の作品を描いていって、「気づきを増やしていく」というのを考えています。

小島―
とても前向きな思考でよいですね。
芸術に対する信念をしっかり持っていて素敵ですね。

東京での新生活

小島―
現在、東京にいらっしゃるとのことで、生活はどうですか?

平井―
とても充実していて楽しいです。

小島―
東京だと色々なところで展示会も多いと思いますが、休みの日に美術館巡りなどはされるのですか?

平井―
そうですね、日曜日は大学が開いていないので、美術館に行ったりします。
最近だとアンリ・マティス展や恐竜の化石の展示を見に行きましたね。

恐竜の化石展では、ティラノザウルスの本物の化石が2頭分きていたのですが、こんなにデカかったのかと衝撃でした(笑)

小島―
東京ですと展示を観る機会も多くて、刺激も増えて良いですね。

今後の活動と目標について

小島―
最後に今後の活動や目標などがあればお聞かせください。

平井―
東京にせっかくいるので、個展やグループ展示などの展示の機会を増やすことです。
あと、今年一年は先生に何を言われてもいいと思っているので、まずは作品数を増やして、自分のやりたいことをしっかりと責任をもってやりきる事ですね。

海外の事も視野にいれてみたりと自分の興味あるものも、どんどん増やしていきたいと思っています。

小島―
とても前向きな目標で素晴らしいですね。
平井さんの今後の作品や活動を応援していきたいと思います。

平井さん、本日は有難うございました。