みなさん、動物はお好きですか?
この記事では、「動物とアートの関わり」「動物をモチーフとしたアート作品」についてご紹介いたします。
アートも動物も好き!という方や、アートに興味があるけど何から触れていいかわからない方、アートはよくわからないけど、動物が好き!という方にも楽しんでいただけたら幸いです。
それでは参りましょう。
アートと動物の関わり
動物は古くより絵画や壁画のモチーフになってきました。
エジプトの壁画のように神のような存在として描かれることもあれば、鳥獣戯画(ちょうじゅうきが)のように、動物でありながらも人間味あふれる姿で描かれることもありました。
鳥獣戯画とは、
平安後期から鎌倉前期にかけて制作された、京都市右京区の高山寺に伝わる戯画絵巻。全部で4巻からなる絵巻物で、その全長は約44mにも及びますが、そこに描かれたさまざまな戯画が、いったい何を表そうとしたものなのかも判然とはしていません。
引用元:鳥獣戯画とは?作者は誰?ミステリアスな国宝を徹底解説ッ!|和樂web 日本文化の入り口マガジン
このように、鳥獣戯画とは古き時代より伝わる絵巻のことを指します。
我々人間とは違う体の構造を持ちつつも近くで共に生活をしてきた動物たちは、興味深く惹きつけられる存在だったのです。
実際に、現代でも動物にあうことのできる動物園は人気の施設ですし、絵を描いている人も多く見かけます。
今も昔も動物は人間を惹きつける存在には変わりがありません。
しかし、日本には鳥獣戯画などの絵がある一方、西洋では動物主体の絵をあまり見かけないと思いませんか?
実はこれにはキリスト教の文化が影響しているのです。
キリスト教の教義で、「動物」や「動物の絵」を崇めることを禁止されていたのです。そのため、動物主体の絵を描くことはできませんでした。
しかし、現代に近づくにつれて自由な表現の幅も広がり、動物をモチーフとした芸術作品が次々と誕生しました。
そこで本記事では、現代アートの幅広い表現で生まれた動物をモチーフにしたアートをご紹介いたします。
動物をモチーフとした現代アート作品6選
動物をモチーフとした現代アート6作品をご紹介します。
作品が見れる場所やアーティストについても解説しているので、ぜひチェックしていただけますと幸いです。
ヤノベケンジ『SHIP’S CAT (Muse)』
宇宙服のような服に身を包む巨大なネコ。
街を見下ろす大きな目が魅力的ですが、なんと全長3.5mもあります。
この作品はヤノベケンジさんの「シップス・キャット」という作品です。
ここで少し、シップス・キャットと呼ばれる猫たちについて説明します。
シップス・キャットとは、船で船員とともに生活しながらネズミから貨物や船を守っていた、いわゆる「船乗り猫」のことを指します。
彼らが活躍したのは大航海時代のこと。
シップス・キャットのおかげで疫病は防がれ、船員の心を癒す役割も担っていました。
元々は害獣駆除が目的で飼われていましたが、その愛らしさからマスコットになったり、危険察知能力があるとされ、守り神のように扱われるようになりました。
ヤノベケンジ氏が制作したシップス・キャットが着ている宇宙服や潜水服のようなスーツは、未来を安全に航海していくという意味がこめられています。
スーツの鮮やかなオレンジは、航海の安全を守る管制塔や神社の朱を表しているそうです。
この作品は大阪の中之島美術館で見ることができます。
中之島美術館は堂島川に面しており、江戸時代の堂島川辺りでは物産を運ぶ船で賑っていたようです。
そんなかつての航海を思わせるランドスケープ、そして人々のこれからの航海をシップス・キャットは見守っているのです。
シップス・キャットは実はシリーズ化しており、鎌倉や博多でも見ることができます。
鎌倉のシップス・キャットも、博多のシップス・キャットも「WeBase」というホステルに立っています。
鎌倉にいるシップス・キャットも真っ白な猫。「幸運を呼ぶ白猫」です。
博多にいるシップス・キャットは金の扉をくぐり抜けて登場するポーズをしています。(以下)
このポーズには「出発」「希望」「誕生」などの意味が込められているそうです。
博多は日本最古の湾岸都市なので、シップス・キャットにぴったりですね。
このSHIP’S CAT(シップス・キャット)シリーズを手がけたヤノベケンジ氏は、大阪府出身の現代美術作家。
SHIP’S CAT(シップス・キャット)シリーズ以外にも、「サンチャイルド」という、黄色の防護服を着た巨大な子供のフィギュアなどで知られています。
もしかしたら見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ヤノベケンジは幼少期より「未来の廃墟」を感じており、衰退し、空虚になっていくディストピア的な日本をおもちゃのような可愛らしいテイストで表現しておりますので、お時間がありましたらヤノベケンジ氏の作品を是非覗いてみてください。
蔡国強『99匹の狼』
これは99匹もの狼が空を飛び、ガラスの壁に向かっているインスタレーション・アートです。
インスタレーション・アートとは現代アートの一種で、展示空間全体を作品とし、観客がその場にいながら鑑賞ができる芸術作品を指します。
この作品は全体では全長40mにもなる巨大な作品で、狼たちも等身大のサイズです。
狼たちは群れで円を描くように何度もガラスの壁に向かい続けます。
飛び越えようとしている壁は1989に崩壊したベルリンの壁と同じ高さです。
ベルリンの壁は壊されましたが、壁によって形成されてしまった人々への圧力や傷は「目に見えない壁」となって未だに残っているということを表しています。
見える壁は越えられますが、見えない壁は越えることができないのです。
この作品では厳しい現実を表している面もあれば、何度でも空を駆け、立ち向かう狼たちの力強くも美しい姿も表現されているのです。
その圧巻の姿には私たちも勇気づけられます。
99という数字は、中国の道教で永遠に循環することを象徴する数字だそう。
作品の狼たちも、永遠に立ち向かい続けるのでしょうか。
これを制作したのは中国の現代美術家、蔡国強(ツァイ・グオチャン)氏。
蔡国強は中国出身の現代美術家ですが、1986年末から1995年まで日本に滞在していました。
筑波大学で学んでいた経験もあり、日本にゆかりのある人物です。
2008年の北京オリンピックでは蔡国強氏は、視覚特効芸術監督として活躍し、大空を巨大な足跡の花火で彩りました。
火薬で絵を描いたり、火薬を使って空にドラゴンを描くなど、火薬を使った作品を多く残しており、これまで破壊の道具として使われてきた火薬をクリエイティブな使い方をしたいという意味があるそうです。
実際に、蔡国強氏はこのように述べておりました。
「火薬は中国で発明された由来があり、暴力につながる一方、花火などの創造的表現にもなる。北京五輪のセレモニーでは、空に花火で巨大な足跡が進むさまを描きました。国家的イベントが個人の作品にもなったケース。国が個人にも”さわれる”存在であってほしいと思っており、その点で満足しています。国を少しずつでも現代的・開放的にしていくためにも、アーティストが何かできたらと思う」
引用元:をちこち
ちなみに動物関連ではありませんが、蔡国強氏の「Sky Ladder」という番組名にもなった作品は、幅5.5mの梯子(はしご)に火をつけると、空に向かって炎の梯子が描かれるというものですが、その光景はまさに圧巻です。
この作品は、地球と宇宙をつなぐ梯子を作りたいと思った彼の作品となっています。Sky Ladderを見た人の中には、「この梯子で天国にいる祖母に会いたい」という感想もあり、とても魅力的で感動する作品となっています。
実際の動画もありますので、もしお時間がありましたらチェックしてみてくださいね。動物をモチーフにしたアートも手掛ける蔡国強氏の魅力がもっと伝わるはずです。
ジェフ・クーンズ 『バルーンドッグ』
この作品は、アメリカの現代アーティスト、ジェフ・クーンズが制作したもので、1994年から制作を開始した「セレブレーションシリーズ」の一種となります。
セレブレーションシリーズとは、誕生日や記念日、祝日など、特別な日に基づいたシリーズのことを指します。
バルーン・ドッグは子供の頃の無邪気な心や遊び心を思い出させます。
人生の束の間の楽しさを永遠のものとして表現しているのです。
ピエロの鮮やかな手つきから生まれるバルーン・ドッグ。
犬を飼うのは憧れだけど、家では飼えないと言われて泣く泣く手にしたバルーン・ドッグ。
自分でつくってみたバルーン・ドッグ。
人によって思い出すものは違うかもしれません。
しかし、あの巨大なバルーン・ドッグを見ていると子供の頃のワクワク感が蘇ってきませんか?
ジェフ・クーンズは、1995年にペンシルベニア州ヨークで生まれ育ち、シュミレーショニズムと言われるアート分野で代表的な人物となった一人です。
シュミレーショニズムとは、誰でも知っている既存のイメージを作品に取り入れ、大胆に変換させる美術運動のことで、1980年代のニューヨークを中心に流行しました。
ジェフ・クーンズは10代の頃、サルバドール・ダリを尊敬しており、なんとダリが滞在しているホテルを訪ねたこともあったそうです。
メリーランド・インスティチュート・カレッジ・オブ・アートとシカゴ美術館附属美術大学(The School of the Art Institute of Chicago)にて絵画を学び、卒業後はニューヨークに渡りました。
1980年代から芸術家として成功していき、現代におけるアートの意味を探求する世代の一人として注目を浴びるようになったそうです。
飯川雄大 『ピンクの猫の小林さん』
民家の後ろから覗くピンクの巨大な猫。
アニメの中から飛び出してきたような可愛さです。
シップス・キャットに引き続き、またしても猫がモチーフとなった作品。
猫というのは芸術家を惹きつけてしまう生き物なのでしょうか。
パブロ・ピカソやダリ・サルバドールも猫が好きだったようです。
「ピンクの猫の小林さん」は、飯川雄大氏による「デコレータークラブ」シリーズに登場する猫です。
デコレータークラブとは、危険から身を守るために小石などを身につけて周囲に擬態し、世界中に生息する蟹です。
デコレータークラブシリーズは、そんな蟹たちから着想を得たシリーズです。
この巨大な猫も家や木の後ろに身を隠していますが、その色鮮やかで可愛らしい姿は鑑賞者を惹きつけてしまい、誰かに伝えたいという欲求を掻き立てます。
この作品が展示されているのは横浜市金沢区並木団地です。
日常生活の舞台である団地の風景に突然現れた巨大なピンクの猫は、見慣れた風景を一気に非日常へと連れ去ります。
顔が見えない相手でも簡単に情報を伝えることができるようになった現代の情報社会において、本当に大切なことはなにかを訴えるような作品です。
飯川雄大氏は、兵庫県神戸市出身のアーティスト。
これまでに人の認識の不確かさや、社会で見過ごされている存在に注目するような作品を手がけてきました。
鑑賞者に気づきを与えたり、反応を誘発するような作品が多いです。
「ピンクの猫の小林さん」も日常に気づきを与えてくれる作品の一つですね。
可愛らしい姿をしながらも私たちに気づきを与えてくれる「ピンクの猫の小林さん」、私の住む街にもいて欲しいです。
アンディ・ウォーホル 『グレーヴィー・シマウマ』
独創的な深みのある色使いと、吸い込まれそうな瞳が印象的なシマウマ。
グレーヴィー・シマウマというのはシマウマの種類で、もっとも美しいシマウマと称されています。
これが制作されたのは1983年、アンディ・ウォーホル氏が制作した作品です。
彼はアメリカの画家、版画家で、1928年にペンシルバニア州ピッツバーグで生まれました。
とても多彩なアーティストで、ロックバンドのプロデュースや映画制作なども手がけていたそうです。
ポップアートの巨匠とも呼ばれ、アメリカの大量消費社会の光と闇をポップなテイストで表現しました。
マリリン・モンローの鮮やかな肖像画は見覚えのある方も多いのではないのでしょうか。
色鮮やかなマリリン・モンローの肖像画もアンディ・ウォーホルによる作品です。
この作品はシルクスクリーンという方法で作られています。
シルクスクリーンとは絵画の制作によく使われる方法で、シルクや化学繊維などでできた布を使う版画の方法の一種です。
アンディ・ウォーホルの作品の多くはこのシルクスクリーン製法で作られています。
今回ご紹介のグレーヴィー・シマウマもその中の一つです。
マリリン・モンローなどの他の作品と同じ製法で作ることで、同じぐらいの高い価値になり、人々が、絶滅危惧種であるグレーヴィー・シマウマへの敬意を持つことを促しています。
アンディ・ウォーホル氏はグレーヴィー・シマウマ以外にも10種の動物のプリントスクリーン作品を制作しました。
アフリカ像、ジャイアントパンダ、オランウータンなど。
その中の8種は今でも現存していますが、2種は絶滅してしまったそうです。
鮮烈な色使いと訴えかけるような表情に、思わず彼らの運命について考えてしまいます。
この作品の売り上げは、自然保護団体などに寄付されました。
残念ながら本作品は日本で鑑賞することはできませんが、他の作品は京セラ美術館で開催されている、アンディ・ウォーホル・キョウト展でみることができます。
小松美羽 『あまねく山犬の営みと恩恵』
生命力を感じる筆致で描かれる3匹の山犬。
神の使いのような雰囲気を纏いながらも、どこか優しさを感じさせます。
この作品を描いたのは小松美羽氏、長野県出身の現代アーティストです。
狛犬をモチーフとした作品がよく知られており、2015年には有田焼の狛犬作品である「天地の守護獣」が、大英博物館日本館に永久収蔵されました。
小松美羽は幼少期から動物と関わりが深く、家では多くの生き物を飼っていたそうです。
長野県の山奥で育った彼女は、動物だけでなく「不思議ないきもの」と出会うことも多くありました。
山で出会った妖精や妖怪のようなものを絵に描いていたそうです。
道に迷うと助けてくれる茶色の山犬には何度も助けられたこともあったのだとか。
小林美羽の力強くも不思議で、惹き込まれてしまう世界観の根底には、幼少期の特別な体験が存在しているようです。
そんな小松美羽が作品について語るときに必ず出てくるキーワードは大和力(やまとぢから)」という言葉です。
その名の通り、小松美羽の作品は狛犬や神獣といった日本のモチーフが頻繁に登場し、力強く描かれています。
しかし、小松美羽は大和力(やまとぢから)」に関して、このように述べております。
「大和力というのは『日本らしさ』ということではない。日本が古来もっている、いろいろなものを組み合わせ、まとめあげてデザインする力であり、方法である」
引用元:ディスカバー・ジャパン
また、現在この作品は北海道の水産物の会社の社長である加藤敏明さんが所蔵しているそうです。
加藤敏明さんはこの作品に関して、
「感性が研ぎ澄まされる感覚があった。アーティストの力を借りたら、後世に残る文化が生まれるのでは、と考えました」
引用元:AERA dot. (アエラドット)
と述べています。
小松美羽の他の作品に関しては、展覧会や個展でみることができます。
時期によって違いますので、詳しくは小松美羽オフィシャルサイトをご確認ください。
まとめ
本記事では、動物アートの関わりや、動物をモチーフとしたアートについてご紹介しました。
少しでも気になるものが見つかった方はぜひ、実際に足を運んでみてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました。